銅版画の魅力の一つに「線による表情の違い」があります。
今回はそれを一枚の作品を例にご紹介したいと思います。
百合を描いた版画です。
主にエッチングで描画していますが、表現に深みを出す為線や面による試行錯誤を繰り返しています。
花は柔らかくガラスの花瓶は硬く表現するよう心掛けました。
花は基本となる線を出来るだけ薄く入れたかったのでエッチングによる腐蝕時間を短くし「スピットバイ
ト」というアクアチントの応用技法を使用しています。
花びらのグレートーンが処理を施した所です。
松ヤニを散布する所までは通常のアクアチントと同じですが、スピットバイトは腐蝕液を筆につけ影になる
部分を描いていきます。
つまり筆で描いた所だけが腐蝕され、非常に淡い表現が可能となります。
また、花瓶左の斜線はただの写生ではなく絵画的要素を取り入れ表現に深みを出す為にドライポイントを使
用しました。
ドライポイントはエッチングと異なりニードルで直接版に図柄を起こしていきます。
金属の摩擦から生じる「まくれ」「バー」が線の両脇に出来、インクを詰めた時にそこにもインクが入り滲
んだような線を作り出します。
これは強く線を引けば滲みも強くなり、単一的でない非常に味のある表情となります。
最後は、「ルーレット」という変わった道具を使用しました。
ルーレットは、ニードルの先に細かい溝を刻む事が出来るタイヤがついていて、版に逸らせて滑らせると均
一に溝を作る事が出来ます。
何度も何度も転がす事により非常に強い溝を作り黒い画面を作る事が出来る優れた道具です。
この用に制作者の意図に合わせ色々な技法を使い分ける事により表情に深みを出す事が版画の魅力です。
順次別の技法もご紹介致しますのでどうぞお楽しみに。